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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)12688号 判決 1971年8月31日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告訴訟代理人は、「被告と神保国治間で昭和四一年三月一日締結された別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という。)を目的物とする買戻特約付売買契約を取り消す。被告は、原告に対し金一一、八五五、九一九円を支払え。被告は神保国治に対し本件建物について所有権移転登記手続をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めると申し立てた。

二  被告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求めた。

第二  当事者の主張

一  原告訴訟代理人は、請求の原因として、つぎのとおり述べた。

(一)  原告は時計卸商人であり、神保は時計小売商人であるが、原告は、昭和三五年ころから同四一年二月二六日ころまでの間、神保に対し継続的に時計の卸売をし、当時における原告の神保に対する売掛代金の残高は金一二四八万円に達した。

(二)  神保はそのころ金額約三〇〇万円の約束手形について支払いを拒絶し、同年三月四日ころ東京手形交換所の銀行取引停止処分を受けたが、当時神保の所有する唯一の不動産は本件建物であつた。

(三)  ところが、神保は、昭和四一年三月一日被告との間で、本件建物およびその敷地である別紙物件目録第二記載の土地(以下本件土地という。)に対する賃借権について、代金は四〇〇万円とし、同四四年三月一日まで神保は金二〇〇〇万円で本件建物および右賃借権を買い戻すことができる旨の約定のもとに、売買契約を締結した。そして、神保は同月二日本件建物について同月一日買戻特約付売買を原因として被告名義の所有権移転登記および買戻特約登記を完了した。

(四)  右売買当時、本件建物については株式会社第一相互銀行のため極度額金五〇〇万円の根抵当権設定登記がなされていたが、本件建物および本件土地に対する賃借権の価格はいずれも金一〇〇〇万円をこえていたのであつて、被告および神保は右売買が原告ら債権者を害することを知つていた。

(五)  被告は、本件建物の所有権を取得したのち、新日本電気工業株式会社の負担する債務について、株式会社東都銀行のため、本件建物について極度額五〇〇万円の根抵当権を設定し、昭和四一年三月二九日その旨の登記を経由し、また、本件建物を他人に賃貸している。

(六)  よつて、原告は被告に対しつぎの請求をする。

(1) 被告、神保間の前記売買契約の取消

(2) 神保の詐害行為に基づく損害の賠償として、被告に対し金一一八五万五九一九円の支払

(3) 前記売買契約の取消に基づき、被告に対し本件建物について神保に対する所有権移転登記手続をすること。

二  被告訴訟代理人は、請求の原因に対する答弁として、つぎのとおり述べた。

(一)  請求の原因一項の事実のうち、原告が時計卸商人であり、神保が時計小売商人であることは認めるが、その他の事実は知らない。

(二)  同二項の事実のうち、神保が昭和四一年三月四日ころ東京手形交換所の銀行取引停止処分を受けたことは認めるが、その他の事実は知らない。

(三)  同三項の事実のうち、神保が原告主張の登記を完了したことは認めるが、その他の事実は否認する。

被告は神保に対し昭和三九年春ごろから夏にかけ数回にわたり合計金五五〇万円を貸与したが、右貸金の回収をすることが困難になつたので、被告および神保は昭和四〇年一〇月五日右貸金の弁済等についてつぎのような契約を締結した。

(1) 神保は同年一二月末日かぎり被告に対し右金五五〇万円を返済すること。

(2) 神保は、右金五五〇万円の返済をする債務を担保するため、本件建物の所有名義を被告に移転し、本件土地に対する賃借権を被告に譲渡すること。

(3) 神保は本件建物を担保として株式会社第一相互銀行から融資を受けることができること。

(4) 神保が右融資を受けるまで、本件建物の所有名義は変更しないが、神保は、右融資を受けたのち、被告の請求に応じ、いつでも本件建物の所有名義を被告に変更すること。

そして、神保は昭和四〇年一一月一二日株式会社第一相互銀行から金五〇〇万円の融資を受けたので、本件土地に対する賃借人名義の変更について地主である藤井嘉一郎と交渉したが、その承諾を得られなかつた。

一方、被告は昭和四〇年一〇月三〇日から同年一二月九日までの間に数回にわたり神保に金二九八万円を貸与し、同日ころ神保は、被告に対しつぎのとおり約した。

(1) 昭和四一年二月末日かぎり前記五五〇万円と右二九八万円の合計金八四八万円を被告に返済すること

(2) 右返済をしなかつたときは、神保はその支払に代えて本件建物の所有権を被告に移転し、被告に対し同建物を明け渡すこと。

ところが、神保は右約定に基づく返済をしなかつたので、被告は昭和四一年三月一日右代物弁済の予約に基づき本件建物の所有権を取得する旨の意思表示をし、同月二日本件建物について被告名義に所有権移転登記を完了した。その際、神保のこんせいにより、被告は売買を原因とし、期間三年、代金二〇〇〇万円とする買戻特約がある旨の登記を経由した。

なお、被告は神保の第一相互銀行に対する金五〇〇万円の債務を引き受け、昭和四二年四月一日藤井嘉一郎に対し、本件土地に対する賃借権譲渡についての承諾料として、金三〇〇万円を支払つた。

(四)  請求の原因四項の事実のうち、本件建物について原告主張の根抵当権設定登記がされていたことは認めるが、その他の事実は否認する。

本件建物の価格は一六五万円、本件土地に対する賃借権のそれは二三五万円程度であつた。

(五)  同五項の主張は争う。

第三  証拠関係。(省略)

別紙

物件目録

第一 東京都千代田区九段二丁目五番地四所在

家屋番号 五番四の一

木造亜鉛メツキ鋼板葺三階建店舗事務所倉庫

床面積 一階 四四・六一平方メートル

二階 一五・〇〇平方メートル

三階 四八・三三平方メートル

第二 同所同番

宅地 八二・六七平方メートル

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